<木酢液と発がん性物質の問題>日本木酢液協会会長 農学博士 岩垂 荘二 ● なぜ炭やき木酢液に発がん性物質が含有されているか木酢液中に発がん性物質が含有されていることは、従来の木酢液の文献を見ればはっきりしている。 栗山博士によれば、窯中の炭材の温度が425℃になると炭化がはじまり、炭化と同時に発がん性物質3.4-ベンツピレンが発生する。 炭材の温度が425℃のときの煙の温度は150℃であるので、煙の温度が150℃以下の木酢液を採取すれば、発がん性物質を含んでいない木酢液を採取することができる。 (1) 熱分解 炭材を180〜200℃に加熱した場合、炭材中の自由水と結合水は蒸発する。自由水とは炭材中に含有されている水のことで、結合水は炭材の細胞中に含有する水のことである。自由水は100℃で簡単に蒸発するが、結合水は細胞中に含まれているので180〜200℃の高温でなければ離散されない。この結合水にはいろいろの生理作用があるようで、これが薬効、ホルモン的効果や生長促進の作用をもっているものと思われる。 熱分解による分解水が木酢液中に含有され、これが木酢液がもっている数百種の化学成分とはまったく別の種類に雑多な生理作用、薬理作用をもっていると思われるが、現時点では確認されていない。また、炭材の熱分解によってセルロースからは炭水化物、リグニンからはフェノール類とまったく性格の異なった化学成分が抽出される。要するに炭材の熱分解によって、木酢液を木タールができるのである。 結論として、熱分解により発生する分解水が未知のものであり、木酢液の未知の生理作用、薬理作用のもとであることを重ねて述べておく。 (2) 炭化 炭化が炭をつくる主工程である。炭化は300℃からはじまり、最高1000℃まで上昇する。炭化温度はそれぞれ、乾溜炭500℃、黒炭700℃、白炭1000℃といわれている。炭化のとき発生する水素と、空気中の水素とが結合して合成水をつくる。この合成水がどういうものかというと未知である。木材乾溜の場合にできる分解水と合成水どのようなものであるかも未知であるが、これらはすべて木酢液中に含まれていることは事実である。 木酢液がいろいろの薬理作用をもっていることが報告されているが、分解水や合成水がこれらの作用に関与しているということは十分に考えられる。 (3) がん性物質(芳香族多環性炭水化物)の発生 栗山博士がいわれているのは、炭化がはじまる450℃以上の温度になると発がん性物質(芳香族多環性炭水化物、例えば3.4-ベンツビレン)が発生するということ、そして炭材の温度が450℃のときの煙の温度は150℃ということである。つまり煙の温度が80〜150℃の範囲内で採取するのが好ましいといえる。要するに煙を冷却して原液とした木酢液に発がん性物質が含まれることは宿命である。農薬取締法でも、肥料取締法、地力増進法でも、すべて発がん性物質を含有していないことが認可項目の第一条件に挙げられている。 しかし、木酢液について問題にされていないのは、業界も取締官庁もどういう考えなのかわからない。 栗山博士の「80〜150℃の煙を冷却した木酢液には発がん性物質 3.4ベンツビレンが含まれていない」という報告があるのに、どうしてこれを採用しないのかわからない。PL法が実施されて今日、1日も早く木酢液について栗山博士の方法を実施することを強く要望する。木酢液の規格をつくるときに私は、随分強く主張したが、聞き入れられなかった。残念なことと思っている。 食品添加物の国際規格であるJECFAには発がん性物質、3.4-ベンツビレンは10μg/kg以上あった場合は使用禁止という規格がある。 高温の煙を液化した場合には、発がん性物質が含まれていることだけが明白になっているのに、どうして日本だけが知らん顔をしているのかが、どうしても私にはわからない。 ● 発がん性物質とは 私たちの体はすべて細胞から成り立っている。この細胞のなかに基底細胞というのがある。基底細胞は絶えず分裂して、新しい細胞をつくっていく。これを分化という。新しい細胞は必ず役目をもっている。 胃の中の胃酸をつくる基底細胞から分化した細胞は、胃酸を絶えず出している。ところがこの基底細胞に発がん性物質が働いて、がん化してしまうと、ここから分化した細胞は胃酸を出す能力を失う。 これが、がん発生の原理である。基底細胞を刺激してがん化する成分が、発がん性物質である。 世界中で発がん性物質を含んだ食品、器物、農薬、肥料、地力増進剤などを取り締まっている。また発がん性物質を含んでいる分量を規制している。木酢液も当然、その対象になっているのである。これに対して栗山博士が明確な報告をされているのは、大変ありがたい。一日も早くこれを具体化することを希望する。 ● 結び 木酢液と発がん性物質については、幸いに栗山博士の素晴らしい研究成果がある。「煙の温度80〜150℃のものを冷却して得た木酢液には、発がん性物質を含んでいない」。 これ直ちに木酢液の規格として発行し、発ガン性物質のない木酢液を市販すべきである。その取り締まりとして、先述の食品添加物の国際規格JECFA(1987年)(FNP38・1988年発行)の3.4-ベンツビレン(Benzo(a)pyrene)が10μg/kg以上あった場合は使用禁止という規格をそのまま決定すれば、日本の木酢液が世界のどの国でも、堂々と発売されるのである。
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